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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)2684号 判決 1966年9月13日

原告 宗村真一

右訴訟代理人弁護士 大石五郎

同 志村桂資

被告 太洋海運株式会社

被告 西川正一

主文

被告らは各自原告に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和四一年六月一一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払わなければならない。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告において被告ら共同のためまたは被告ら各自のために金七〇万円の担保を供するときはその担保提供がなされた被告に対し、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、被告太洋海運株式会社は金額一〇〇万円、支払期日昭和四一年六月一一日、支払地東京都中央区、支払場所株式会社東京都民銀行茅場町支店、振出地中央区、なる約束手形一通を訴外竜商工株式会社宛振り出し、被告西川正一は右振り出を保証した。訴外会社は右手形を原告に裏書譲渡し、原告はその所持人となった。

右手形は支払期日に支払のため呈示されたが支払を拒絶された。よって原告は被告に対し、右手形金及びこれに対する満期以降完済まで年六分の割合による金員の支払を求める。

と述べ、被告の抗弁に対し、

抗弁事実は否認する、但し神田ツルと神田清が夫婦であること、神田清が死亡したこと、原告が同人から同人が生存中会計計理の相談をうけたこと、は認める。と述べた。

被告らは請求棄却の判決を求め、

答弁及び抗弁として、

原告主張の請求原因事実中、本件手形の振出日、支払期日、受取人の記載は否認、原告の本件手形の所持は不知、被告らは共同振出人である。その余の事実は認める。

本件手形は、東京地方裁判所昭和二三年(ワ)第三六三〇号借地権確認土地明渡請求事件及び同控訴事件である東京高等裁判所昭和三四年(ネ)第三〇八二号事件に関し、訴外亡神田清が当事者尋問、和解期日等に出頭し被告西川正一に協力したことに対する謝礼として、神田清の要請を容れ被告西川正一が金額一〇〇万円、これを昭和三八年四月より毎月五万円宛二〇回に亘り支払うことを同神田清に約し、その支払債務を担保するため振出日、支払期日及び受取人等のらんを白地のまま被告両名が振出したものである。西川正一は右支払債務を昭和三九年一〇月一〇日までに全額を支払ったから被告らの本件手形債務も消滅した。然し昭和三九年一〇月一二日神田清が死亡したため本件手形の返還を受けていなかった。

然るところ右神田清の妻神田ツルは、右事情を知りながら自己が代表取締役である竜商工株式会社を受取人とし振出日を昭和四〇年一月五日支払期日を昭和四一年六月一一日とそれぞれ補充したものである。

原告は亡神田清の生存中同人の会計計理を担当していたから以上の事情を知っていた。それにもかかわらず被告らを害することを知りながら本件手形を取得したものである。

理由

原告主張の請求原因事実中、本件手形の振出日、支払期日、受取人の各記載、原告が本件手形の正当な所持人であること、被告西川正一が振出保証をなしたか共同振出人であるか等を除いて当事者間に争いはない。

本件手形の振出日、支払期日受取人らんが白地で振り出されたこととは被告ら自から認めるところであり、このような場合特段の証拠がないかぎり補充権を付与して振り出し交付し、右白地部分になされた記載は右補充権の行使によってなされたものと推定されるところ、右補充権の付与がなかったことまたは補充権の行使がらん用によるものであることを認めるのに足りる証拠はない。

次に被告西川正一が振出の保証人であるか、共同振出人であるかについて争いはあるが、振出人らんの筆頭署名者の二番目以下の署名に共同振出人または保証人のいずれであるかを特定する記載のない場合、二番目以下の署名が保証のためなされたものと解する、余地がないわけでなく、特段の証拠がなければ原告の主張にしたがってこれを保証人と解することもできるというべきところ、原告所持の本件手形中、振出人らんの二番の署名である被告西川正一名義の署名には右特定をなし得る記載がないので、同被告を保証人と認定する。

次に抗弁について考えてみるのに、被告らは、本件手形は亡神田清に対する謝礼金支払債務を担保するため右神田清に振り出したもので右謝礼金は昭和三九年一〇月一〇日までに完済し、本件手形金債務も消滅したと主張するけれども、右謝礼金支払債務を完済したことについてもまた、仮りに右謝礼金支払債務を弁済したとしても、原告が本件手形を取得するについて右事情を知って取得したものであることのいわゆる悪意取得についても、右各事実に関して当事者間に争いのない事実をもってはこれを認め難く、他にこれを認めるのに足りる十分の証拠はないから、抗弁は採用できない。以上によれば原告本訴請求は理由があるから認容し民事訴訟法第八九条、一九六条を適用し、仮執行については、前記謝礼金債務の弁済の事実及び原告の悪意取得の事実についての証拠制限を考慮し、担保を供することを条件に仮執行ができることを相当と考え主文のとおり判決する。

<以下省略>。

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